かみしま

神島 - Kamishima


三重県鳥羽市に属する周囲3.9kmの有人島である。渥美半島と志摩半島とが迫る伊勢湾口に位置し、その美しい島影は遠くからもよく目立つ。標高170.92mの灯明(とうめ)山を中心に山がちな地形で、平地は少ない。集落は島の北西にあり、細い路地と階段が複雑に入り組んだ、神島の象徴的な場所となっている。谷筋に沿う2本の小川は、家の裏手を抜けるか暗渠となって路地の下を流れるかしていて気付きにくいが、かつて洗濯場として使われた所で一部その姿を見ることが出来る。集落の目前に広がるのは、かつては砂浜だったという広い漁港だ。島に信号機はなく、自動車が通行出来るのは、集落と南にある神島小中学校とを結ぶ道路だけだ。

 

唯一の寺である桂光院は、集落を見下ろす高台にある。境内からは海に向かって傾斜する赤い三州瓦の家々が一望できる。集落から続く214段の石段を昇ると、綿津見命を祀る八代神社がある。八代神社に伝わる数百点もの神宝は重要文化財に指定されていて、海蔵寺跡に建つ収蔵庫にて厳重に管理されている。島民の信仰は厚く、大晦日から元旦にかけて行われるゲーター祭りは、県の無形民俗文化財にも指定された奇祭だ。この他にも一年を通じて様々な祭礼行事が残されている神島は「民俗学の宝庫」とも呼ばれる。

 

渥美半島の伊良湖岬と神島の間は海の難所として知られる伊良湖水道で、貨物船を照らす神島灯台の灯光は、共に「日本の灯台50選」に選ばれている伊良湖岬灯台のそれと合わせ、中京工業地帯へのゲートウェイの一双をなす。その立地から、太平洋戦争の末期には本土決戦を視野に入れた防衛上の重要拠点として、砲台や野砲陣地など様々な軍事施設が築造された。中でも著名なのは旧陸軍が遺した監的哨で、これは三島由紀夫の小説『潮騒』のクライマックスシーンの舞台として知名度を得た。集落から灯台、監的哨を経て島の南側を一周する道は近畿自然歩道として整備されている。南の海岸には浜が多く、古里の浜、ナガハマ、八畳岩を挟んで祝が浜と続き、さらに弁天岬の東側にはニワの浜が存在する。これらの浜は海女さんが漁をする時の根拠地となっている。ニワの浜で見られるカルスト地形は不動石とも呼ばれ、大きく露出した石灰岩が雄々しい。

 

島内の水道は現在、三重県側からの送水に頼っているが、かつて使われていた井戸や水源池はそのまま残る。井戸の一つには「おたつ上臈」の言伝えがある。他にも神島には伝説伝承が多く、「デキ王子塚」に代表される八王子の伝説もその一つだ。

 

以上のように神島は、小さいながらとにかく見所の多い島である。魚市場で今日の漁獲を見学する。集落の景観に感嘆し、路地を探検して大いに迷い、息を切らして辿り着いた八代神社で柏手を打つ。上り下りの山道をトレッキングして、白亜の灯台で伊良湖水道の潮騒を聞き、監的哨で大海原を望む。藪は濃いが、灯明山の頂を目指してみてもいい。玲瓏たるカルスト地形に手をかざして、海風に帽子を飛ばされたり。鏡石を見て「そうは思えん」とツッこんだり。鼻赤峠を越えて集落へ入れば桂光院の鐘が鳴る。時計台に洗濯場に銭湯跡に生活を知り、井戸に薬師堂に王子塚に歴史を感じる。昔に比べて数は減ったが、集落には山海荘などの宿や飯屋も揃う。島の立地から言って、漁港の堤防は絶好の釣りスポットでもある。小説『潮騒』を片手に思いを馳せながら歩くのもいいだろう。あるいは『わしらは怪しい探検隊』よろしく、古里の浜でキャンプするのもいい。神島はさらに「恋人の聖地」にも登録されている。言ってみればこの島は、離島界のオールラウンダーだ。如何なる楽しみ方にも応え得る、溢れんばかりの多様な魅力が詰まっている。

 

そんな神島へは、鳥羽の佐田浜港から日に4往復の市営定期船が就航している。所要時間は約50分である。


神島の地図 (©Yaura Wakami)
神島の地図 (©Yaura Wakami)


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